Shuji Nakamura Waits Outside Osaka University Professor’s Office to Propose Fusion Research Collaboration – Japanese
JAPAN – 写真:BLF設立1周年記念イベントで幹部らと話し合う中村氏㊧
ノーベル物理学賞を受けた中村修二氏が立ち上げた核融合スタートアップのブルー・レーザー・フュージョン(BLF、米カリフォルニア州)と大阪大学が共同研究を進めている。背景には核融合における阪大の高い技術力がある。中村氏は阪大と交渉するため、米国から一時帰国して意中の教授を「出待ち」までしたほどだ。
2022年4月、中村氏とBLF共同創業者でベンチャーキャピタリストの太田裕朗氏は核融合の学会が開催されていた横浜市桜木町のコンベンションセンターの入り口に立っていた。リュックを背負って2人が待っていたのが、レーザー核融合を長年にわたって研究してきた阪大レーザー科学研究所の藤岡慎介教授らだ。
「OECという方式でやろうと思っています」。自動販売機が置いてある待合室のような場所で、中村氏と太田氏は切り出した。
レーザーを2枚のミラーの間で何往復もさせることで増幅する「光学増強共振器(OEC)」は、2人が考えた新しい核融合のアイデアだ。増幅したレーザーを燃料に照射することで強力に圧縮させ、核融合反応を起こしてエネルギーを取り出す。
OECはあまりに斬新なアイデアだったため、ちょっと沈黙があったという。中村氏は「私は全くの素人で、向こうは専門家。説明しても『ダメだ』と言われると思った」と振り返る。中村氏らは藤岡氏に加え、レーザー科学研究所の兒玉了祐所長とも面会した。
中村氏と太田氏が阪大に目をつけたのは、レーザー科学研究所が世界的にも有名な研究機関だからだ。1972年に設立され、米ロチェスター大学と並んでレーザー核融合の研究をけん引してきた。中村氏は「日本では阪大が唯一核融合を昔からやっていて、優秀な教授もいる。レーザーについては非常に進んでいる」と評価する。
BLFは独自のレーザーを開発しながら、阪大のレーザーを活用した燃料への照射実験などに取り組みたいと考えていた。藤岡氏は当初「一過性の話なのではないか」と懐疑的だった。「よくよく話を聞くと、かなり長期にわたって共同研究をしたいという意向だった」と、中村氏と太田氏の熱意を感じたという。
BLFは実験の一つとして、軽水素とホウ素からなる「プロトンボロン」という新しい燃料の検証をしたいと考えていた。使用するのは阪大が持つ「LFEX(エルフェックス)レーザー」だ。しかしこのLFEXレーザーの性能は不十分だった。

もともとLFEXレーザーは半導体の露光のために使う装置として2008年ごろ阪大に建設された。当時から将来的にはレーザー核融合にも活用が期待されており、18年ごろから核融合研究にも活用されるようになった。
しかし4本のビームのうち、ターゲットに向かってレーザーを集光する性能を高めるための特殊な鏡である「可変形ミラー」が1本にしか設置されていなかった。予算の関係もあり、数億円もかかるというミラーの調達に難航したためだ。
プロトンボロン燃料には高強度のレーザーが必須だ。一般的な重水素(D)と三重水素(T)からなる「DT燃料」と比べると、核融合反応を起こすのが「格段に難しい」(藤岡氏)。燃料の温度を一段と高める必要があり、そのためにはレーザーの高強度化が欠かせなかった。
藤岡氏には「可変形ミラーが導入されれば、劇的な変化が起こる」との確信があった。横浜の出待ちから数週間後、中村氏と太田氏が阪大まで訪ねてきた際に藤岡氏はダメもとで聞いてみたという。「せっかくの機会ですから、可変形ミラーの導入はどうでしょうか」
ミラーは阪大の設備となる。しかし「研究的にも意味がある投資だ」(太田氏)として、BLFは約1億8000万円の拠出を決めた。
藤岡氏は「単に商売のためではなく、大学や学術に貢献したいということも意識して支援いただいた」と振り返る。BLFの意思決定のスピード感にも驚いた。
「金額も金額だったし、BLFが本気なんだということを強く感じた」と藤岡氏は話す。可変形ミラーは24年度内に設置が完了する予定だ。
阪大ではBLF独自のレーザーの研究も進む。その一つが光源となるレーザーをいくつかに分岐させた後に合流させることで増幅する「コヒーレントビーム結合(CBC)」だ。
この分野で「日本一の技術をもっている」(太田氏)のが、BLFを含む様々な企業と共同研究する椿本孝治准教授だ。BLFがCBCレーザーの活用を決めたのも「(BLFの)若い研究者が椿本先生のところへ勉強に行って、自信を持って帰ってきた」(中村氏)からだという。
半導体も人工知能(AI)も核融合も、日本の研究が世界をリードしていた時代があった。米国に渡った中村氏も阪大の技術に期待を寄せる。レーザー核融合で世界初となる発電を実現できれば、再び日本の科学技術に光が当たる契機となるかもしれない。
(仲井成志)
About Blue Laser Fusion, Inc.
Blue Laser Fusion Inc. (BLF) is a leading fusion energy company based in Santa Barbara, CA with offices in Silicon Valley and Tokyo, Japan. The company is commercializing a proprietary and novel laser fusion technology to achieve the world’s first carbon-free, on demand, renewable, clean energy generation and to accelerate a transition to an electrified world. BLF aims to commercialize a GW scale reactor to provide power to the grid to meet the acute and increasing demand for clean energy for data centers and to support the AI revolution, for semiconductor chip fabrication facilities and chemical and steel production plants, as well as for electric vehicles and homes. The company has a comprehensive IP portfolio with more than 100 patents and applications internationally. To learn more, please visit:

